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連鎖回路 サンプル  02/06/2011  
連鎖回路 第一部 一章

【 1 入学式 】




桜並木の坂道を駆け上ると見えてくる中等部から大学部まで一貫しての共同広場にある噴水が見えてきたところで、キラは急いでいた足を少し緩ませた。

ハラハラと舞うように降って来る薄桃色の桜の花弁が真新しい制服を着た新入生達の賑やかな雑談を縫って、色彩鮮やかな空間と新鮮な空気を作り出す。

通い慣れた道でも全く違って見えるものだと、一際強く吹いた風が桜吹雪を起こす中感嘆の息を吐いたキラは、噴水の前に立つ少女の姿を見つけるなり大きく手を振った。

「カガリ!」

緩めていた足を再び急がせて少女のもとへ駆け寄ると、カガリがムッとした表情を作って怒ったように言う。

「遅いぞ、キラ!」

それでも「ごめんごめん」と軽く謝ってくるキラにカガリは直ぐに笑みを浮かび返すと、息を切らしたキラの腕をお構い無しに引っ張って「行くぞ!」と促した。

共同広場を抜けた西側には大学部の校舎、東側には中等部の校舎がある。晴れて中等部から高等部に進級したキラは、今まで右折していた道を直進し高等部の校舎へと向かった。

校舎と制服が変わっただけだというのに、新しい環境というものはやはり妙な緊張感があるものだ。自分でさえもこうなのだから、高等部からの外部入学者であるカガリは尚更のことだろうと、自分の隣に並んで歩くカガリを見ると、きょろきょろと周囲を物珍しげに見回しながらふぅと息を吐き、「迷いそうなほど広いな」と漏らした。

「慣れればそうでもないよ」

「そうか?」

キラにそう言われるものの、その慣れるまでが大変そうだとカガリは思う。

大体、中等部から大学部までが一貫してあるとはいえ、ここの敷地面積は自分が通っていた中学の軽く10倍ほどはありそうな広さだ。

「でも、カガリとこうして同じ学校に通うのも変な気がするよね」

せめて高等部校舎までの道ぐらいはちゃんと覚えておかないとなと、目を凝らしていたカガリだったが、突然キラにそう言われ視線を隣のキラへと移した。

「まあ、今までが離れ離れだったからな」

当然のことを当然のよう口にすると、元は同じ顔のはずなのだが、色彩、性別の違いから全く異なって見える弟の顔をカガリは繁々と眺めた。

キラとは事実上血の繋がった双子の姉弟であるのだが、実の両親が事故で亡くなって以来、互いに別々に引き取られ、小・中共に別の場所へ通っていたこともあり、なかなかこうして顔を合わせることも出来なかったのだ。

「お義父様を説得するの大変だったんだぞ!」

「え、何で?」

「だって、ここやたらとレベル高いだろ! お前には無理だって何度言われたことか……」

「あはは、でもまあ無事合格したんだから良かったじゃない」

キラほど勉強が出来るわけではない自分に取っては、笑い事ではないほど頑張ったのだがと、簡単に言ってくれるキラにカガリは不満げな顔を向けつつ、「まあな」と返した。

高等部校舎が漸く見えてきたところで、校舎前に置かれた掲示板の人だかりが続いて目に付く。

クラス発表が張り出されているらしく、人だかりの中には見知った顔も幾つか見られた。

キラとカガリも人だかりの後方から掲示板を覗き込み自分の名前を探す。

「カガリ、何組だった?」

先に自分の名を見つけたらしいキラがすかさず尋ねると、自分より僅かに背の低いカガリは人だかりに苦戦しているらしく、背伸びをしながら首を右へ左へと忙しなく動かしている。

「あった! C組だ。キラ、お前は?」

「僕はBだった」

「じゃあ、お隣だな」

この学校で唯一の知り合いであるキラとクラスが分かれてしまったのは寂しいが、クラス数も考えれば分かれる確率の方が断然高い。この場合は隣のクラスだっただけでも喜ぶべきところだろう。

「教室に行くぞ!」

キラは自分のクラスのほかに、友人のクラスをまだ確認しているようだったが、掲示板を見るため次から次へと集まってくる人だかりに巻き込まれるのは勘弁だったので、カガリは早々とキラを促した。

しかし、颯爽とカガリの後に続いたキラだったが押し寄せてくる人波に押されて誰かがキラにぶつかってきた。

「きゃ」と短な悲鳴が上がり、そのまま人波に揉まれて転びかけた少女の腕をキラは慌てて引っ張る。

何とか体勢を持ちなおした少女が目に焼きつくよう鮮やかな赤い髪をかきあげてキラを見た。

「ごめんなさい」

咄嗟に謝ってきた少女の顔が思いの他近くにあったのと、それが思いがけない相手だったということが重なって、キラは瞬時に顔を紅潮させた。

「え、あ、いや……」

掴んだままだった手を慌てて離すと一瞬静まり返ったように思えた空間に騒々しい喧騒と自分を呼ぶカガリの声とが戻ってきた。

「気をつけて」

一言そう言葉を返し、カガリの声に急かされるようキラは踵を返す。

「ありがとう」

御礼を言ってきた少女を振り返ると、あどけなさの残る笑顔がそこにあってキラも知らずと微笑を浮かべた。

「お前、あの子と知り合い?」

キラが追いついてくるなり、キラの表情の変化に目敏く気付いたカガリが訝しげに尋ねた。

「えっ、いや、違うけど……」

どこか落ち着かない様子で返答を返したキラの前方にカガリは回りこむと、キラの歩行を遮って、からかい交じりの口調で言う。

「お前あの子のこと好きなんだろ!」

全く遠慮のないカガリの問いに、キラはグッと言葉を詰まらせ、カガリを押しどけるように横切って足を速めた。

元々カガリは物事をズバリと聞くタイプだが、ずっと離れていたとはいえ姉弟なだけあって、こういう時は尚更タチが悪い。

沈黙は肯定の意、言い逃れが出来るとは思わないが、咄嗟に何か理由をつけて回避しようとする意思が働くのも、姉弟とはいえカガリが異性であることと、照れくささが上回ったためだ。

しかし図星をつかれての動揺から言葉が出ずに、「お前そういうのすぐに顔に出るからな」とまで言われてしまえば、今更否定したところでたいした意味はない。

「そういうカガリこそ誰か好きな人いないの?」

詳しく突っ込まれる前にとキラはさり気なく自分のことから話を逸らした。

「いるはずないだろ、私はお嬢様学校出だぞ!」

返ってきた返答に尤もだと頷きながら校舎に入って左方の階段を上ると、話をまた振られる前にとキラは自分の教室に飛びこんだ。

カガリは不満そうに教室の中に入っていったキラを見たが、それぞれのクラスに人が集まってきていたので、仕方なく自分のクラスへと入っていった。




教室の中にはちらほらとこれから1年間同じクラスになる生徒が既に入学式までの時間を思うように過ごしていたが、外部入学生であるカガリに当然見知った顔は見られなかった。

楽しそうに雑談しながら教室に入ってくる女子生徒達を尻目にカガリは窓際の比較的後ろ側の席を選んで腰掛ける。

やっぱりキラと同じクラスだったらよかったのに…… と、何となくつまらなそうに窓の外を眺め見ると、広い校庭を挟んで、東校舎にある教室が丸見えであることに気付いた。

今自分のいる西校舎側が1、2年の教室だから、あっちは3年の教室かと、入学説明会で貰った地図を頭の中に思い浮かべ、3年の教室の中で先程からチラチラと揺れている金色の髪をカガリは目で追った。

そう言えば、同じお嬢様学校卒業でずっと友達だったアサギ達は今頃どうしているだろうかとカガリは思う。

自分にはお嬢様学校のカリキュラムは正直身に合わなかったため、高等部は弟であるキラが通っているここに進学することに決めたのだが、アサギ達と過ごした日々はそれなりに楽しかった。

だけど、自分はどうしても付属の高校にそのまま上がる気にはなれなかったのだ。

「ねえ、ここ空いてる?」

向こう側の校舎で一際目立っていた金色の髪に、更に人目を惹くよう目立つ深い藍色の髪が駆け寄ってきたのを目で追ったところで突然声をかけられカガリは振り向いた。

見れば自分の隣の席に1人の少女が立っている。

見覚えのある鮮やかな赤い髪に「お前さっきの……」とつい言葉を落としてしまい「何?」と不思議そうに首を傾げてきた少女にカガリは慌てて「空いてるみたいだぞ」と返した。

偶然と言うか、必然と言うか。先程掲示板前でキラにぶつかってきた女の子だ。

確信の持てる返事は得られなかったが、恐らくキラが好意を寄せている相手で間違いないと思う。

「フレイ・アルスターよ。よろしく」

隣の席に鞄を置き、初対面であるのを物怖じともせず少女は明るい声で名前を告げてきた。

「えっ、あ、私はカガリ・ユラ・アスハだ」

行き成りキラの想い人が自分と同じクラスになったという動揺から少しまごついたものの、元々カガリも人見知りをするような可愛い性格はしていないのできっぱりと答える。

すると、フレイが少々妙な反応をして、カガリを繁々と見回してきた。

興味とも探りとも取れるフレイの直接的な視線にカガリはたじろぎつつ、自分は何か悪いことを言っただろうかと考える。

もしかして、キラのことを気付かれたのかもしれないと、何の根拠もなく思ったところで、「アスハって、もしかしてアスハグループの?」と、微かな逡巡を持ってフレイがそう尋ねてきたのでカガリは「何だ、そのことか……」と内心安堵した。

「ああ、そうだが」

何も考えず素直に頷くと、フレイの興味深そうな目はいっそう強まった。

「アスハグループのご令嬢が外部入学してくるって聞いてたのよ」

しかし、フレイの言葉にカガリは瞬時に怪訝そうな顔をすると、今度はカガリの方がフレイをじろりと見て尋ねた。

「何でそんなこと知ってるんだ?」

いくら、アスハの名が大きいとは言え、自分の知り合いじゃない奴までもが自分のことを知っているというのはあまり気分のいいものじゃない。

「お父様から聞いたのよ」

しかし、返ってきた返答にすぐさまフレイのセカンドネームを思い出したカガリは納得したよう首を頷けた。

「アルスターって、もしかしてブルーコスモスの?」

「そういうこと、まさか同じクラスになれるなんて思ってなかったけど」

世界に名を連ねる三大企業の1つは自分の養父が社長を務めるアスハグループだが、そのもう1つがブルーコスモスだ。

アルスターと言ったらブルーコスモスの幹部であり、お父様とも親交があったはずだから、自分の進路を知っていてもおかしくはない。

(キラのやつ教えてくれたっていいのに…… それとも知らなかったのか?……)

あいつのことだから知っていても絶対に教えなかっただろうなとカガリが小さく溜息を吐いたところで、フレイが教壇の上の時計を見上げ言った。

「そろそろ入学式始まるわよ。行きましょう」

気付いてみればいつの間にか教室にはクラスメイト達が揃っていて、廊下の方から整列を促す上級生の声が聞こえた。

「ああ」

短く返事を返し、椅子から立ち上がるとフレイが明るい笑顔を浮かべて言う。

「ま、これも何かの縁ってことで、よろしくね」

全く新天地でも妙な縁というものはあるものだと思いながらカガリも、「ああ、こっちこそよろしく頼む」と返答を返した。





入学式が行われる体育館内は開会式間近となり人が集まり出してきたこともあって、喧騒でごった返していた。

「キラ!」

前方に掲げられたクラス表示の札を居並ぶ新入生の頭の上から確認していたキラは、後ろから駆け寄ってきた幼馴染の声に振り返る。

「アスラン」

今日は朝から姿が見られなかったアスランのことをキラはずっと探していたのだが、アスランの後ろからやって来た金髪長身の男を見て軽く頭を下げると、そう言えばと言葉を続けた。

「アスラン、新入生代表の挨拶をするんだったよね?」

「ああ、おかげで今日は朝から打ち合わせだの何だので大忙しだ」

苦笑しながら首を振って見せたアスランだが、その表情に特段疲れた様子はない。

緊張する素振りも全く見られず、流石にアスランは昔からこういうことは慣れてるんだよなとキラが思ったところで、アスランの後ろにいた金髪の男がアスランのことを呼んだ。

「悪いキラ、また後で!」

どうやら時間が押しているらしく、大した会話を交わす間もなくアスランは金髪の男と行ってしまった。見れば入学式開始時刻まで後15分とない。

相変わらず喧騒は続き自分と同じようにまだ席にも付いていない生徒も多かったが、キィーとマイクの金切り音が耳に付き壇上に目をやると、アスランと一緒にいた金髪の男がそこに立っている。

「あ~テステス……」

マイクのテストをする際のお決まりの言葉が体育館内に響き、一瞬気を取られたため和らいだ喧騒が再び戻ってくる頃を見計らって絶妙のタイミングで、「お前等さっさと席につきやがれ!!!!」と、大音量の声が飛んだ。

急激に静まり返った館内をグルリと見回した金髪の男は「そこ、さっさと席につく!」と指を差しながら強引に指示を出し始めたので、キラは慌てて自分のクラスの列に腰を据えた。





体育館でキラの姿を見つけ、声をかけようとしてカガリはあげかけた手を胸の位置で止めた。

「キラ!」と呼んだ声は自分のものではなく、体育館の正面入り口から駆け寄ってきた男に先をこされたのだ。

色濃く目立つ藍色の髪を肩口で揺らした男はキラと親しげに話しをしていて、その後方には自分のものより僅かに褪せた金髪を短めに刈った長身の男の姿がある。

自分が先程教室の窓から見かけた東校舎側の3年の教室にいた2人だと、やけに印象的だった髪色で思い出し、長身の男の襟のラインが緑色であることも確認してカガリは藍色の髪の男と金髪の男を交互に眺めた。

なにぶん2人とも遠目に見ても抜群に目立つ容姿をしている。

自分がお嬢様学校出だということもあって、キラ以外の同年代の男をこういう風にじっくりと眺めたことなどなかったためか、妙に気になって仕方ない。

金髪の男からキラと話をしている藍色の髪の男にもう一度視線を移したところで、その襟のラインを見てカガリはあれ?と首を傾げた。

(青…… ってことは1年だよな? ……でもさっき3年の教室に……)

「カガリ…… カガリってば!!」

「え、…… あ、フレイ……」

「何ボーッとしてるのよ。式始まるわよ」

「えっ、ああ……」

促されてカガリはフレイの隣の席に腰を下ろした。チラリとキラの方を振り返ったが、もうそこに2人の姿はない。

「何、知り合い? さっき一緒にいたわよね」

「ああ…… ちょっとな……」

すかさずフレイに尋ねられて曖昧に答えを返すものの、前にキラにも言われたことがあるが、どうにも自分は思ったことを直ぐに表情に出してしまうところがあるらしく、フレイは納得した様子もなくカガリの返答自体はどうでもよさそうに、再び尋ねた。

「何て言うの、彼?」

「え、あ、キラのことか?」

「ふーん、キラって言うんだ」

B組の列に腰を下ろしたキラを興味深そうにフレイは見たが、その時突然館内に響いた大音量にフレイの視線は壇上に引き戻される。

どうやらもうそろそろ式が始まる時間らしい。一気に雑音が減った中、皆所定の位置に腰を下ろしていく。

壇上で注意を促した男が先程の金髪の男だと気付き、カガリは無意識に男を目で追った。

壇上から下りた男が横側の役員席に座るのを見、その隣にさっきの藍色の髪の男が座っているのを見つける。

「なあ、フレイ。あの青い髪の奴知ってるか?」

視線を促され、カガリの指す方向をフレイは見る。

「あれって、アスラン・ザラでしょう」

「アスラン・ザラ?」

知っていて当然と言わんばかりに答えたフレイを見ると、少々不可解そうな顔をされカガリは小首を傾げた。

「あなたアスハの令嬢なのに知らないの?」

フレイの馬鹿にしたような、心底呆れたような物言いにムッとするものの、こんな風にズバズバと言い合える感じが懐かしくて嬉しい。

「アスハだとか、そういうのは関係ないだろう」

大抵の人は自分がアスハの令嬢だと知ると同年代であっても自分より年上であっても、妙に畏まった喋り方をしてくるものだが、そう言えば自分の通っていた中学でもアサギ達だけは違ったなと、進路の別れてしまった友達のことを思い出す。

「じゃあ、本当に知らないの?」

念を押すフレイの訝しむ声にカガリはもう一度アスラン・ザラの名を頭の中で繰り返した。

「ザラ…… ってもしかして……」

「そうよ、あの大企業ザフトトップのザラよ」

「父上、ザフトとはあまり交流ないからな……」

「そういう問題じゃないでしょ。ここらじゃ有名人なんだし、彼」

「え、そうなのか?」

社長令嬢とは思えない返答と言葉遣いにフレイは思い切りの呆れを示しつつ、息を吐いた。

「何、もしかして惚れたの?」

それから楽しそうな笑みを作ってカガリの顔を覗き込む。

「ち、違うっっ!!」

瞬時に赤く染まったカガリの顔は幾ら口で否定していても、全く説得力がない。

「本当に?」

「本当だ! ただキラと話していたから気になっただけだ!!」

カガリの返答にフレイは変な笑みを作って「ふーん、キラね……」と頷いた。

言葉の端に勘違いとも取れる意図のようなものを感じて咄嗟に言い返そうとしたが、丁度入学式が始まってしまったので、流石に私語を続けるわけにもいかずカガリはそのまま口を噤んだ。





厳かな雰囲気の中進んでいく入学式だが、実際式なんてものはお偉いさんの無意味に長ったるい話が大半を占め、数々の祝辞が述べられる中、カガリは欠伸を噛み殺した。

退屈しのぎに目だけを動かして、居並ぶ生徒の頭をぼんやり眺めると自分の座っている位置より椅子3個分隔てた右斜め前の位置にキラの姿を見つけ、先程から一定のリズムを保ってカクンカクンと揺れている頭を見れば、どうやら堂々と居眠りをしているらしい。

自分の弟でありながら全く情けないものだと思うも、考えてみれば自分も似たようなものかという結論に行き届き、苦笑を浮かべつつカガリは壇上に視線を戻した。

丁度来賓の祝辞が終わるところで、前方の壁に貼られたプログラムに目を通せば次は生徒会長祝辞と記されている。どんな人だろうかと興味の湧く中、役員席から立ち上がったのは先程アスラン・ザラと一緒にいた金髪長身の男で、一言で館内を静めてしまったあの男だ。

生徒会長だったのかと納得する中、飾らない言葉で短く「入学おめでとう」と軽快な口調で告げた彼は無意味に長く話しを連ねる来賓達の祝辞よりもよっぽど好感が持てるし、歯切れのいいさばさばとした物言いも聞いていて気持ちがいい。

「3年A組、ミゲル・アイマン」と、短い祝辞の最後に述べられた名を耳に、続いて役員席から立ち上がったアスラン・ザラの姿をカガリは目で追った。

流石に大企業ザフトの御曹司なだけあって言動に気品があり、よどみがない。

涼やかに伸びる声を聞きながら、同じよう名門企業の令嬢である自分とは大違いだと息を吐き、隣の席に座るフレイを見ると、こちらも令嬢さながらの上品さが目に付き、あまりに繁々と眺めてしまったためフレイと目が合った。

「確か新入生代表の挨拶って入学試験トップのやつがやるんだったよな?」

目が合ったついでに式の最中ではあるがいつもの調子でつい声を潜めて尋ねてしまい、流石にまずかったかなと思うも、フレイから返答が返ってきたのでカガリは安堵する。

「そうよ、今年のトップはあのアスラン・ザラだったってわけ。しかも彼は歴代トップよ。まったく嫌になっちゃうわよね。成績、家柄も良し、容姿も良しって!」

令嬢の上品さとは打って変わった口調で話し始めたフレイの親しみやすさが素直に嬉しい。

「へぇーすごいんだな、あいつって」

素直に頷きつつ、「そう言えば何でそんなに詳しいんだ?」とちょっとした疑問をぶつけると、「これぐらい誰でも知ってるわよ」と返答が返ってきて、自分はそれ程までに無知なのだろうか?とカガリは納得いかなそうに首を傾げた。

そうしているうちにいつの間にかアスラン・ザラの新入生代表の挨拶は終わっていたようで、程なくして入学式も終わりをむかえた。

各自それぞれのクラスに向かうようにと支持が出される中、カガリは人で混雑する中キラの姿を見つけ颯爽と駆け寄る。





「キラ!」

「カガリ…………………………」

名を呼ばれ振り返ったキラはそこにカガリの姿を見つけたのと同時にカガリの横にいる人物の姿を見て絶句した。

「フレイだ。さっき友達になった」

キラの表情の変化を目に意味ありげににやついた笑みを浮かべながらカガリが楽しげに言う。

「さ、さっき…… って……」

カガリとフレイの顔を交互に見比べながら、朝のカガリとのやり取りを思い出したキラは今更一番厄介な奴に自分の想いを知られてしまったのだと気付き思い切り項垂れた。

「フレイ・アルスターです。さっきはごめんなさい」

どうやら朝の出来事を覚えていたらしいフレイが可愛らしい仕草で頭を下げた。

「えっ、いや…… キラ・ヤマトです……」

何となく気恥ずかしくなり、顔を赤くしたキラは慌てて返答を返す。

と同時に、「キラ!」とまた別の声で名を呼ばれた。

「アスラン!」

役員席側から駆けてくる幼馴染の姿を見つけ、フレイと対峙した際の緊張した面持ちが一気にキラの顔から消えた。

「よかったよ、代表挨拶!」

「ああ、ありがとう」

親しげな様子で話し始めた2人を目にカガリとフレイは同時に顔を見合わせる。

「……ところで……」

キラと一緒にいるカガリとフレイのことに気付いたアスランがキラとの会話を遮って視線を向けてきた。

自分に向けられた女子生徒2人の視線が妙に突き刺さる中、フレイを見てアスランが口を開く。

「アルスター嬢に……」

それからカガリを見たアスランの言葉を引き継ぐように、「カガリだ!」と、金髪の少女が答えた。

「ああ、俺は……」

フレイのことをアルスター嬢と口にした時点でキラが訝しむようにアスランを見たことにも気付かず、アスランは自分も名乗ろうとしてまたカガリに先を越された。

「知ってるぞ、アスラン・ザラだろ!」

今始めて会ったはずのカガリにフルネームで名指しされ、アスランは間の抜けたような顔で困ったようにカガリを見た。

「違うか?」

「いや、違ってはいないが……」

何となく居心地悪そうにキラを見たアスランだったが、当のキラは何か考え事をしている様子で、アスランの視線に気付かない。

そんなアスランを余所に、カガリはキラの肩を遠慮なく叩いて尋ねた。

「お前、何であのザフトの御曹司のアスラン・ザラと知り合いなんだ?」

本人を前にしてなんともストレートなカガリの物言いにキラは苦笑する。

「えっ、うん。アスランとは幼馴染なんだ」

「なんだ、それ私は知らないぞ!」

「だって、言ってないし……」

「何で言わないんだよ!」

一向に進展を見せない言い合いをずっと続けているキラとカガリはどう見ても親しげな間柄でちょっとしたことで言い合いが出来るほど打ち解けあっている様子だ。

(キラの彼女か? ……でも、彼女が出来たなんてキラのやつ俺には一言も……)

(カガリの彼氏かしら? 朝も一緒に登校してたみたいだし…… なかなかやるもんね~)

言い合いを続けている2人を見ながら、同時に同じような勘違いをしたアスランとフレイは取りあえず、互いに顔を合わせて挨拶を交わした。

「お久しぶりね」

「ああ、昨年のパーティーの時以来だな」

「お父様はお元気?」

「相変わらず仕事に忙しい人だよ、父上は。そちらこそアルスター氏は?」

「うちのお父様も同じよ。今は海外の方にいるわ」

漸くカガリとの言い合いに一応の収まりがついたキラは、アスランとフレイを見て怪訝そうに眉を顰めた。

どうにも親しげに会話が弾んでいる様子に、アスランがフレイと親しいなんて聞いたことなかったけどな…… と拗ねたように零す。

そんなこと言ってもアスランには自分がフレイに好意を寄せていることなど伝えていないのだから、仕方ない。それに、思えばアスランとはそういう話をしたことはなかった。

(まさか、2人が付き合ってるってことはないよね……)

そう言えば、アスランが女の子と親しげに話しをしているのって珍しいかもと思ったところで、カガリがフレイに駆け寄っていくのが見えた。

「キラ、早く教室に戻らないと入学式初日から怒鳴られるぞ!」

アスランに言われてキラは慌ててカガリの後を追う。





長い高校生活は今まさに始まったばかり。





前方で靡く赤い髪を目にキラは複雑な胸中の中、弾むような、吹き荒れるような予感めいた微笑を浮かべた。




It continues to the book.



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